一緒に牡蠣を食べることで生まれた不思議な連帯感

私は牡蠣が大好きなのですが、残念なことに周りには同じように牡蠣好きという人があまりいません。子供の頃は父宛てのお歳暮に牡蠣が届いた日には小躍りして散々親におねだりしていたことを覚えています。兄弟は見た目の気味悪さと食感に敬遠して私のみが食べるので家族との食事で牡蠣が出たことはなくいつもお腹いっぱい牡蠣を食べてみたいという野望を抱いていました。そんな私も社会人になり晴れて自由に牡蠣を食べられる立場になったのですが、何となく物足りません。

タルタルソースたっぷりの牡蠣フライ、ポン酢でだいただく蒸し牡蠣、フライパンで焼き牡蠣…想像するだけでよだれが出てしまいますが、もっとこう豪快に大量に食べてみたかったのです。そんな悶々とした日々を過ごしていたある日、ついに私の野望が果たされる場所を発見しました。そう、「牡蠣小屋」です。テレビの画面に映し出されるバケツに山盛りに入った大ぶりの牡蠣たち。炭火焼きで大量の牡蠣が焼かれ、食べる人々は皆一様に笑顔という光景。これこそが私の求めていたパラダイスではありませんか。幸いにも当時私が住んでいた土地は海も近く、牡蠣小屋をリサーチするとそう遠くない場所にあることがわかりました。これは是非行かねば!と意気込んでみたものの、そういえば私には牡蠣好きの知り合いがいないのです。たった一人で若い女性が牡蠣小屋で黙々と牡蠣を食べる姿ってどうでしょうか。年をとった今なら全く平気なのですが、当時のうら若い乙女の私にはとても恥ずかしくて実行できることではありませんでした。

そうしてまだ悶々とした日々が続いていたのですが、ついにチャンスが訪れました。会社の社員旅行で昼食に牡蠣小屋を利用するというのです。反対意見もなくこの旅行日程は確定し、私は指折り数えてその日を待ちました。ちなみにこんなに社員旅行を楽しみにしたことはありません。職場は男性がほとんどなのでいつも私の女子力が試されることが多く気を遣うのではっきりいって旅行など面倒でしかなかったのです。しかし牡蠣小屋のことを思えばこの試練もなんてことはありません。女子力などかなぐり捨てて食べられるだけ食べてやる…そう心に決めて迎えた当日。滞り無く日程を消化しマイクロバスは無事牡蠣小屋に到着しました。満面の笑みで席につく私の隣に誰かが座ります。そこで凍りつく私の笑顔。なんと隣には仏頂面の課長が…。強面の課長は口数も少ないのでほとんど話したことはありません。せっかくの牡蠣食べ放題なのにこの状況は辛すぎます。でも社会人としてここは課長を気遣いつつ静々と牡蠣を食べるしかないと覚悟を決め、課長のために牡蠣を焼くマシーンになることにしました。

しかしいざ昼食が始まるとどうでしょう、なんと課長が率先して私に牡蠣を焼いてくれるのです。「君、これが食べ頃だよ」となんとも手慣れた風にじゃんじゃん牡蠣を焼いて私の皿に載せてくれます。そのうち私も調子に乗って「あ、課長それ二つともいけます」などと指示する始末。そのうち二人の間に妙な連帯感が生まれ、結局二人でバケツ三杯食べました。牡蠣小屋でお腹いっぱい食べて大満足だっただけでなく、それ以来課長とも仲良くなり仕事がスムーズに行えるようになりました。牡蠣好きで良かったと思えた出来事でした。